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仙台家庭裁判所 昭和27年(家)2438号 審判

申立人 松本清一(仮名)

右代理人弁護士 赤塚治(仮名) 他一名

相手方 遠山誠(仮名) 他二名

右三名代理人弁護士 田口一平(仮名) 他一名

参加人 佐々木さち子(仮名)

右代理人弁護士 木村治郎(仮名)

主文

一、○○市○○丁○○地の○宅地四拾八坪八合七勺(実面積参拾四坪参勺)の内別紙図面(一)の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の四点によつて囲まれた六坪五合四勺の部分を分割して申立人の相続分としその余の部分は相手方等の共有相続分とする

二、○○市○○丁○○番の○所在家屋番号第○○○番の○木造瓦葺弍階建店舖兼居宅壱棟建坪弍拾九坪五合五勺外弍階参拾坪九合の内別紙図面(ニ)に示す(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の部分の一、二階(建坪六坪弍合参勺、弍階六坪弍合参勺)を区分し申立人の相続分としその余は相手方等の共有相続分とする。

三、相手方誠は前項の建物について○○法務局昭和弍拾七年○月○日受附第○○○○号を以てなされた保存登記の抹消登記手続をしなければならない

四、参加人の本件申立を却下する

五、本件手続費用中鑑定人村山太郎に支払つた分は申立人及相手方等の折半負担とし、同藤原正に支払つた分は相手方等の負担とし、爾余の調停及審判費用は各自弁とする

理由

申立人の本件申立の要旨は

申立人は亡遠山与助と亡ふさの間の長男であり相手方等は右与助と亡よねの間の子である。右与助は昭和二十六年○○月○○日死亡したるに因り相続が開始したのでその共同相続人である、申立人及相手方等の間において遺産の分割につき協議したが調わず、昭和二十七年四月○日申立人より仙台家庭裁判所に対し遺産分割を求める調停の申立をなし相当回数に亘り調停委員会の調停の試みを受けたが申立人と相手方等との意見が一致せず同年十二月○日不調に終つた。被相続人の遺産としては不動産、動産(電話加入権〈2〉○○○○番一があつて之を共同相続人である申立人及相手方等の四人に於て均分相続したが申立人は右遺産の中左記土地及建物の分割を求める部分の一部を昭和二十五年八月頃左記二の家屋建築当時より被相続人から借り受け店舖を構え○○○○商を営みその収入により申立人及妻子三名の生計を推持して来たものであつて右場所における営業が唯一の生計の手段であるから先づ被相続人の遺産中

一、○○市○○丁○○番の○

宅地四十八坪八合七勺(登記簿上坪数、換地地積三十四坪三勺)中左の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の四点に依つて囲まれた長方形の部分を申立人の取得部分とすること

(イ)点-右宅地の東北の角(現在申立人の店舖の東北端)

(ロ)点-(イ)点より宅地の境界線に沿い西方二十一尺の点(現在相手方名儀の調理場のガラス窓の北端)

(ハ)点-(ロ)点より右ガラス窓に沿つて南方へ十尺七寸の点

(ニ)点-(イ)点より宅地の境界線に沿い南方十尺七寸の点(現在申立人の店舖の東南端)

二、同市同丁番地の四宅地上に存する家屋番号第○○○番の○木造瓦葺二階建店舖兼居宅一棟

建坪二十九坪五合五勺

外二階三十坪九合

の中

右(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の四点に依つて囲まれた地上に存する部分一、二階共(一階は理在、申立人の店舖を同一間口の儘、相手方調理場のガラス窓まで奥行を拡張したものに当り二階は現在の六畳及四畳半の両室に当る)を申立人の取得部分とすることに分割請求をするというにあり

相手方等の申述の要旨は右二、表示の建物は誠が被相続人の内縁の妻、佐々木さち子の姉菊田和代より三回に佐々木さち子と資金を連帯借用して建築したもので建築許可が被相続人名義になつているのは父であることや対外的の都合と便宜を考えてそうしたのであつて家屋の所有権は誠にあるから被相続人の遺産に属しない。仮に同家屋が誠に所有権がなく遺産に属するとするも申立人の分割請求部分は全遺産の四分の一以上の要求であり且つ之がため相手方誠の経営する店舖の現状が著しく縮少し営業上支障を来たすこととなり不当であるから価格を評価しその四分の一に当る金銭を相手方等から申立人に支払う方法に依て遺産を分割すべきことを求める。参加人の申立に付いては参加人がその主張するような営業権を持つているものではなく又被相続人の遺産を相続する権利がないからいづれの請求も不当であるというにあり

参加人の申立の要旨は、参加人は元亡遠山与助と婚姻し昭和二十三年○月○○日離婚したがその後も同人の実質上の妻として内助の功を尽して来たため右与助は参加人の功を認め、与助死亡後生活に不安を来たさせないよう昭和二十六年○日中参加人名義を以て遠山○○の営業許可を受けてくれたので爾来今日迄参加人が○○業を営んで来たものである。依て申立人及相手方等に対し遠山○○の営業権が参加人に属することの確認を求めると共に独立採算制の下に参加人をして右営業を行わさせることの承認を求め、若し之が認められないときは亡夫与助の遺産が約六百万円存するのでその三分の一に当る二百万円の分与を求めるというにある。

審案するに申立人が亡遠山与助と亡ふさ間の長男であり相手方等が右与助と亡よねの間の子であつて与助の遺産につき各四分の一の相続分を有すること、右与助が昭和二十六年○○月○○日死亡した事に因り同日相続が開始したことは、夫々記録編綴の戸籍謄本の記載によつて明かであり○○市○○丁○○番の○宅地四十八坪八合七勺(但登記簿上の坪数)が右与助の遺産に属することは同記録編綴の登記簿謄本の記載によつて之を認めることが出来る依つて前記二、記載の店舖兼居宅一棟が亡遠山与助の遺産であるか否やについて考察するに同人は従前より○○丁○○番地の○に店舖を構え○○を経営していたが昭和二十年七月空襲により店舖を焼失しその後、同地上に木造瓦葺平屋建一棟(三十二坪)を建築し○○営業を経営して来たが○○市復興土地区劃整理により建物を移動した後、同二十五年○月○日該建物を取毀し同年○月中事実上新築に着手し(○○市建設局の確認は二十六年○月○○日)亡遠山与助が建築主として○○市建設局に新築願の手続を採り同年○月中未完成の儘新築家屋に居住し階下一部を○○に当て営業し二階は同二十六年六月二日附で内縁の妻佐々木さち子名義で○○県知事の許可を受け○○業を営んで居たことは記録に編綴の各証明書類に徴し明かである。

又佐々木さち子の陳述によれば右店舖兼居宅一棟は亡与助の建築にかかり新築費用は百十五万円の予定でその資金の一部は亡与助が同女の姉菊田和代より借用したことが窺知し得ること、更に被相続人は新築家屋の階下○○通りに面した一部を石田幸雄(○○屋)に期限は同年十月より二ヶ年で一時金二十万円毎月の賃料三千円の約定で賃貸した事実(同二十九年八月明渡○たもの)尚、又本件家屋新築前より申立人を呼寄せ○○を手伝わせ新築に際しては表通り東北端(イ)より西口(ニ)まで間口十尺八寸(間口は申立人は十尺七寸と計上しあるが鑑定人の測定が正確である)奥行七尺五寸の部分を店舖として当初は無期限で(後に期限は昭和二十七年三月末と定めた)前家賃の意味で昭和二十六年中に前金五万円を出金せしめて賃貸し尚○○営業に充当の資金として数回に十万円程度(相手方提出の借金調書には七万円と記載してある)の融通を受けていたこと、又相手方由子並に久子の審問によれば遺産は○○丁○○番地の土地及店舖兼居宅等であると思う旨の陳述並に共同相続人間に於て遺産分割の協議調わず申立人より調停申立があつたので相手方誠は佐々木さち子に相談し建物保存登記手続をした事情が推測し得るし一方当裁判所昭和二七年(家)ロ第一三号調停前の仮処分「主文掲記の建物については売買贈与抵当権の設定その他の処分行為、建物保存登記、賃貸借等の行為をしてはならない」旨の決定(同年四月九日)と同日に保存登記手続をした事実を綜合考覈すれば店舖兼居宅は被相続人与助の所有に属しその遺産であることを認めるに充分である。尚分割協議中であつた本件建物は未届、未登記の儘であつた処より相手方誠が昭和二十五年○○月○日の建築として同二十七年○月○○日○○法務局家屋台帳に登録し前記の如く同年○月○日保存登記手続をしたが該建物一棟は被相続人が同人所有地上に建築した店舖兼居宅一棟と同一物件であり然も誠が新築したものでないことは前記事実及記録編綴の○○市建設局の確認整理簿証明書に照応して明らかであつて記録を精査するも被相続人の所有建物であることの事実を覆すに足る証明は毫も存在しない。そして相手方誠が病気静養中を除き被相続人の○○に於て働いていた事実は証人長谷英雄の証言により明らかであるが斯る事実を以て右家屋が誠の固有財産であることの証明とはならない。されば店舖兼居宅一棟について○○法務局昭和二十七年○月○日受付第○○○○号を以てなされた相手方誠名義の所有権保存登記は同相手方に於て不法になしたものであることが明らかであるから相手方誠は之が抹消登記手続をしなければならない。

次に申立人は○○○○の販売業を営み相手方誠は被相続人死亡後○○を営み(昭和二十八年四月頃より二階を○○営業として許可を受け経営している)所謂駅前の店舖として場所的に営業が唯一の生活手段であることを共に強く主張し殊に申立人は店舖は狭隘で日常起臥に事欠く現状であるとの理由で前記請求部分について譲歩せず相手方誠は一部分を譲歩するのみで到底妥協の見込はなく現物分割に代えて他の方法による解決は困難である。そして相手方由子は既に浜口啓吹と婚姻し兄誠が現在病弱の事情を慮り営業継続を望み自分の相続分は現物に代えて金銭を以て分割する方法を表明し相手方久子も同意見である。依て当事者の生活環境の実状、店舖の位置、従前よりの営業的立場、建物の現状、その他諸般の事情を参酌して現物分割を以てすることを相当と認める。

そこで進んで申立人において分割を請求する前記土地及建物の部分が遺産相続による共有財産の四分の一に相当するや否やについて考察するに鑑定人村山太郎の鑑定の結果によれば土の総価格は四百四拾五万九千二百九拾一円であるが申立人の土地に対する分割請求部分(六坪五合四勺)を分離し一個の独立したものとしその余の土地の部分(二十七坪四合九勺)を一個の独立したものとして各別に評定したその価格によれば前者は七十六万五千百八十円、後者は(分離後の土地の評価)三百三十四万五千二百九十一円となり申立人の請求部分の土地価格とその余の土地部分の評価格との合計額は四百十一万四百七十一円で前記総価格よりは三十四万八千八百二十円の低価格となる。従てその合計額に対する申立人の請求部分の評価七十六万五千百八十円との比率は十八、六%に相当し均分率二十五%をはるかに下廻り合計額の四分の一である百二万七千六百十七円七十五銭より二十六万二千四百三十七円七十五銭の不足を生ずることとなる。又建物の総価格は百七十五万一千五百六十七円で(登記簿上は建坪二十九坪五合五勺、二階三十坪九合、延坪六十坪四合五勺なるも鑑定人実測の結果は建坪三十坪二合三勺、二階三十一坪八合七勺延坪六十二坪一合が正確で之に依つたものである。尚○○市建設局の昭和二十六年○月○○日の確認整理簿には六十二坪二合五勺とある)申立人の分割請求部分一階六坪二合三勺、二階同上を三十五万一千四百三十四円と評定しその余の部分(一階二十四坪、二階二十五坪六合四勺)を百四十万百三十三円と評価した。この結果申立人の請求部分の価格は建物の総価格の四分の一より八万六千四百五十七円七十五銭の不足を生ずる。

更に鑑定人藤原正の鑑定結果は村山鑑定人の鑑定に比し土地の価格評価が高価で建物は低価格である点に相違があるが結局は宅地、建物を鑑定申請書の通り分離し各別に独立した一個のものとして評価したものであつて宅地の総価格を四百八十一万四千五百六十四円と評価し、更に相手方鑑定事項第二(1)の(宅地中東北端角を起点とし西方十二尺南方十尺七寸(松木清一使用の店舖端)の点を結ぶ線を二辺とした長方形の宅地で「鑑定書二」記載に当る)部分の評価は四十八万七千百三十四円でこの部分を除外した残余部分の土地の評価は四百四万三千五百六十六円と評価した。その結果右第二(1)の価格と残余部分の価格の合計額は四百五十三万七百円で土地の総価格より価格が二十八万三千八百六十四円低額となる。

そして前記合計額の四分の一は百十三万二千六百七十五円であるから第二(1)の評価格は右の平均額より差引六十四万五千五百四十一円の不足である。

又建物の総価格は百五十一万一千六百四十五円で鑑定事項第二の(鑑定事項第二(1)の長方形の宅地上の一階の建物及び二階建物中六畳一室の時価評価額「鑑定書二記載に当る」)価格は十六万五千円と評価した。従て建物の総価格の四分の一は三十七万七千九百十一円二十五銭であるから第二(2)の鑑定価格より二十一万二千九百十一円二十五銭の超過額となる。

故に相手方の第二(1)(2)の鑑定部分を分離しその区劃で分離することとすれば申立人の分割請求部分の価格より過分取得となることは容易に看取し得る。

右の次第で各鑑定人の土地及建物の評価によればいづれも申立人の分割請求部分の価格は相続分の四分の一に達しない。従て分割のため相手方の店舖が現状より縮少するが共同均分相続による分割上避けがたい処である。

然し申立人の分割請求部分は前記のように均分額たる四分の一に達しないが申立人は分割請求部分として申立の趣旨に表示しただけの部分に留め、本件以外の不動産(調査未了のため不詳)動産(○○用及○○営業用の動産)電話加入権等については兄弟間の間柄であり、将来円満なる交りを希望し相手誠の営業上の立場も考慮し相手方の好意的態度を期待して暫く分割請求を保留するというにあるので凡ゆる角度より勘案して本件申立に係る遺産に付ては申立人をしてその請求部分を取得せしめその余の部分を相手方等三名の共有相続分とすべきものとする。

参加人佐々木さち子は昭和二十七年九月二十七日利害関係人として調停に参加の申立をしたものであつて昭和十六年頃より被相続人と内縁関係を結び同棲中同二十三年○月○○日同人と婚姻し同年○月○○日協議離婚したが依然内縁関係を継続し同二十六年○月○日佐々木さち子名義で主文掲記の建物の二階で○○営業許可を受け被相続人を援けて稼働し且相手方等の養育にも尽力して来たが相手方親戚の菅沼政治より同二十八年初春頃○○を経営して見たいから二ヶ月位営業を委せてもらいたいとの申出があり同年四月頃より○○の経営を誠入院中につき一時誠の妻つねにし爾来相手方誠より一ヶ月五千円の小使を受け現在階下三畳間に起臥して居るものであることが記録に徴し明らかであるが被相続人死亡の際に前記の如く離婚し配偶者でないから遠山与助死亡による遺産相続権はなく、従つて遺産を六百万円としその三分の一に当る二百万円の支払を求めている参加人の本件遺産分割の申立は不適法であることが明らかであつて却下を免れないし尚○○営業権の確認等を求める申立については家庭裁判所は審判権を持たないから不適法として却下すべきものである。

以上の理由により申立人の申立の限度に於て本件遺産を主文第一、二項記載の如く分割し費用の負担については家事審判法第七条非訟事件手続法第二十六条同法第二十八条同法第二十九条民事訴訟法第九十三条に則り主文の通り審判する。

(家事審判官 三森武雄)

別紙図面(一)、(二)〈省略〉

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